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まだ本格的にスタートして数年の「介護予防」を、広く社会的に普及させるための課題とは何でしょうか。
まず平成18年(2006年)の改正介護保険法において新設された、「地域支援事業における介護予防事業」の現状を、確認してみます。
介護予防がなかなか普及しない理由 でも記したとおり、そもそもこの市区町村が実施する「介護予防事業」そのものが、普及活動・PR不足もあって十分に知られていません。
「地域包括支援センター」についても同様で、「介護予防の対象となり得る高齢者層に対し、これらの存在をどう周知していくか」を、関係者が全体の問題として今まで以上に考えていく必要があります。
介護予防事業が知られていないのですから、その内訳メニューである「基本チェックリスト」が、その存在すらよく知られていないのは当然です(基本チェックリストは、「基本チェックリスト」とは をご参照)。
結果的に、基本チェックリストを使って「要介護リスクの高い高齢者」をスクリーニングすること自体が難しくもなりますし、もしその可能性がある高齢者がいたとしても、肝心の本人にその意識が乏しいために、カウンセリングや医師の検査など、次のスクリーニング(洗い出し)につなげていくことが難しくなります。
自分が要介護になりそうか否かなど考えたくもない、という高齢者も多いですし、医師の情報提供を求めたくとも検査代が別途発生してしまう、介護予防事業について医師の理解が得られないケースがある、などの障害もあります。
そもそも要介護リスクの有無を問わず、高齢者が地域の介護予防教室などに積極的に参加しないのは、すでに全国的な傾向となっています。
これは比較的男性に顕著で、配偶者に先立たれたりして自分から地域とのかかわりを持とうとせず、家に閉じこもりがちな男性高齢者を、行政が交流の場にひっぱりだすこと自体がなかなか容易ではありません。
どの市町村も介護予防教室の開催回数がそれほど多くないことから、介護予防の重要性をからだにおぼえこませる機会が絶対的に足りない、という問題もあります。
高齢者にとっては、介護予防体操のメニューをおぼえるにもある程度の回数の反復が必要なはずですが、年に数回程度の開催では、どうしても足が遠のいてしまいます。
また市町村の介護予防事業のサービスメニューの種類も少なく、地域住民の関心を強くひくところまで至っていないのが現状です。
かといって、介護予防教室の回数を増やすなど、介護予防事業のメニューの充実をはかっていこうにも、今度は保険者となる自治体の財政面の問題があります。
いまはさほど目立ちませんが、自治体の財政力格差を反映し、将来的に介護予防サービスにおける市区町村の格差が拡大していく可能性もあります。
介護予防ケアマネジメントの中心的役割を担う「地域包括支援センター」においては、要支援者を対象とする介護保険(予防給付)のケアプラン作成業務にかなりの時間を割かれ、介護予防事業にまでなかなか手が回らないのが現実というところも多いようです(「地域包括支援センター」を有効活用する ご参照)。
その解決には、地域包括支援センターの人員体制強化、そして居宅支援事業所や地域社会との連携強化などが必要になりそうです。
(このような背景から「改正介護保険法(平成27年4月施行)」において、地域包括支援センター自らに事業の質の評価を行わせるよう促し、また市町村にもその業務の定期的な点検を求めるなど、その質の向上が図られることになりました。
加えて地域包括支援センターの現場の個別会議で出てきた課題を把握し、横断的に問題意識を共有し政策形成を行いやすくするため、厚生労働省の通知レベルで運用していた「地域ケア会議」が、正式な介護保険法上の組織として位置づけられることになりました。)
以上述べたような様々な問題があり、市区町村側としても、地域支援事業(介護予防事業)の肝となるべき「要介護リスクの高い高齢者の把握」がなかなか難しい、というのが実情のようです。
これらの問題を解決に導くことが、すなわち介護予防の課題の解決につながるはずなのですが、現実には介護予防関連の財政面のさらなる手当てや、他の都道府県の成功事例や課題を学ぶための情報交換会など、国が調整しなければ話がなかなか進まない施策も多くあります。
自治体だけに任せるのではなく、国や地域社会・地域住民間のネットワークをさらに強め、介護予防の普及を加速していくことが求められています。
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