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すべての記事は⇒こちらから「介護予防」の目的と、介護保険上の位置づけ
「介護予防」とは、(1)「要介護状態になることを、できる限り防ぐ(遅らせる)こと」および(2)「現在すでに要介護状態の場合は、状態がそれ以上悪化しないようにする(改善を図る)こと」の両方をさします。
(ちなみに「要介護」というのは、介護保険で定められた利用限度枠を認定するために設けられた基準です。認定の区分は「要支援(1・2)」と「要介護(1~5)」の7段階にわかれています。)
とりわけ(2)の、"現在の身体状況のこれ以上の悪化を防ぎ、改善に努めていく"ことが「介護予防」の定義に含まれていることは、つい見落としがちですので注意しておきましょう。
「介護予防」は、平成18年(2006年)4月の改正介護保険法において導入され、現在の介護保険制度の一端を担うものです。
具体的に「介護予防」の対象となるのは、要介護認定において「要支援(1・2)」と認定された介護保険の被保険者の方々です(ただし下記のとおり、2015年の介護保険法改正により、一部の要支援者向けサービスが介護保険から市町村の事業に移されます)。
(ちなみに「要介護認定」ですが、まずは本人または家族から、居住地の市区町村役所や地域包括支援センターに対して、申請手続を行います。
その後、調査員の訪問調査や聞き取り調査を経て、コンピュータによる一次判定と、専門家で構成する介護認定審査会による二次判定を経て、申請から原則として1ヶ月以内に「非該当(自立)」「要支援(1・2)」「要介護(1~5)」のいずれかの認定結果が、文書で届くことになります(詳しくは姉妹サイト内記事 介護保険の申請~「主治医意見書」「認定調査」で気をつけたい点 ご参照)。
さて、ここでもうひとつ、「地域支援事業」の主な一環として、「介護予防(事業)」が同じタイミングで導入されることになりました。
この「地域支援事業」は市町村が主体となって行いますが、実際は地域包括支援センターに委託されている場合がほとんどです。
つまり「介護予防」は、介護保険の要介護認定において、
・認定を受けていないか、「非該当(自立)」判定者を対象に市区町村主体で実施する「介護予防事業」と、
・「要支援(1・2)」認定の人たちを対象に、介護保険から給付が行われる「予防給付」 (一部のサービスを除く)
との、大きく二つのステージに分かれているのです。
別の言い方をすると、介護保険の「要介護認定」というモノサシで、この二つのステージに分けられるかたちになったわけです。被保険者として介護保険の「予防給付」を利用する前に、そうならないよう健康なうちから、市区町村の「介護予防事業」を積極的に利用して予防に努めてほしい…というのが国のメッセージだったのでしょう。
背景にはもちろん、国の介護保険財政のひっ迫があります。
国の介護保険の総費用は、制度がスタートした2000年度は3.6兆円でしたが、要介護者数の急速な増加に伴い、2013年度(実績)で9.2兆円・2016年度(当初予算)で10.4兆円となっています。開始時の3倍弱にまで膨れ上がったのみならず、現在も右肩上がりで増加し続けています。
月額の介護保険料(第1号被保険者・全国平均)も2,911円でスタートしたものが、2015年~2017年度は5,514円。ついに5千円台を突破しています。
介護予防の普及によって介護保険の給付利用者が減少すれば、介護財政の負担も中長期的に減らしていくことができるだろう...という、厚生労働省の狙いがあるわけですね。
しかし残念ながら現在のところは、 介護予防がなかなか普及しない理由 でも述べているとおり、高齢者に対しての普及の度合いもいまひとつで、もくろみどおりとはいっていないようです。
平成27年(2015年)4月から「改正介護保険法」が順次施行されていますが、介護予防サービスでも大きな変更がありました。
市町村が行う「地域支援事業」の枠組みが、「介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)」と「包括的支援事業」「任意事業」の、3つに再編されました。
市町村もこの改正にすぐに対応できないことが見込まれたため、猶予期間が置かれたのち、平成30年(2018年)4月から市町村に完全に移行することになります(ただしスムーズに移行しつつある市町村は、現状で全体の約4割に留まっています)。
とりわけ利用者にとっての大きな変更が、介護保険で要支援1・2の人を対象としていた「介護予防訪問介護(介護予防ホームヘルプサービス)」・「介護予防通所介護(介護予防デイサービス)」が、国の介護保険の予防給付から外れ、市町村の行う総合事業に移行したことでした。
ただし「介護予防訪問介護」「介護予防通所介護」の総合事業への移行は、平成30年(2018年)3月末までに完了させることになっています。
総合事業の完全実施から1年遅れとなっているのは、移行前に介護保険の要支援認定を受けていた人がいるため、その有効期間(最大12ヶ月~2018年3月末迄)後の適用となったからです。
注意したいのは、「要支援者向けサービスの全部が、市区町村に移るわけではない」点です。
市区町村に移るのはあくまで「介護予防訪問介護」・「介護予防通所介護」の2サービスだけで、それ以外の要支援者向けサービスは引き続き”介護保険の”予防給付に留まります。
ただし要支援1・2の方が使っている介護予防サービスのうち、「介護予防訪問介護」・「介護予防通所介護」の2サービスが約5割を占めているため、これらが全国一律の介護保険の予防給付(介護予防サービス)の枠外となることは、利用者にとってやはり影響の大きい改正と言わざるを得ません。
さて、二つのステージは同じ「介護予防」にかかわるものですが、前者の「介護予防事業」は市区町村が実施の主体となっていて、しかも介護保険が適用されている者以外を対象としていることには、注意が必要です。
「予防給付(介護予防サービス)」となると、被保険者として直接的に介護保険を使っているわけですね。
これに対して「介護予防事業」の場合は、介護保険をいわば「間接的に」利用しているかたちになります。
市町村が行う「地域支援事業」には、介護保険財政の3%を上限に、その費用が支出されているからです。
なお上で述べたように、現在の要介護状態のこれ以上の悪化を防ぐことも、「介護予防」の定義に含まれていることを、思い出してください。
介護保険の「予防給付」そして「介護予防事業」については、それぞれ 介護保険の予防給付(介護予防サービス)の概要 市区町村の「地域支援事業」とは でご説明してまいります。
ところで皆さんは、「老年症候群(生活不活発病)」という言葉をご存知でしょうか。
老年症候群について(倉敷医療生活協同組合)
これは生きていくために必要な力、記憶力・判断力・生きることへの気力といった「生活機能の全般的な衰え」の進行により、高齢者の「生活の質」が知らず知らずのうちに低下してしまうことを指します。
たとえば、高齢者が家の内外を問わず転びやすくなったり、低栄養状態となったり、うつ状態や認知機能の低下が見られることなどが、老年症候群の具体的症状です。加えて病床で寝たきりの状態になると、自立している人の2倍の老年症候群が現れてくるとも言われます。
(以下の姉妹サイト内記事も、あわせてご参照ください。)
・高齢者のうつ病~家族の対応と気づき・治療の注意点
・認知症の高齢者介護、早期治療のために家族がすべきこと
これらは必ずしも病気によって起きるものではなく、むしろ身体と精神が弱ってくる過程で起きる症状です。
ということは、適切に対処することによって高齢者の「老年症候群」を予防することは可能、と言えるわけです(逆にその対処を誤れば、潜在的な病気まで顕在化させてしまい、多臓器疾患・ひいては要介護状態へと向かう恐れがあります)。
高齢者にとってはこの「老年症候群の予防」こそが特に必要であり、同時に「介護予防」のための基本的な考え方ともなるわけです。
次の記事は「介護保険の予防給付(介護予防サービス)の概要」です。
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