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すべての記事は⇒こちらからフレイルとは~介護予防はいつからスタートすべきか
人生の終盤で急病や事故によって、ある日突然に死を迎える人の数は、全体からみるとそう多くありません。
大半の高齢者は、歳を重ねるにつれて少しづつ身体の機能の衰えを実感し始め、やがて日常生活上の動作に支障をきたすようになっていきます。
高齢化が進み介護予防への関心も高まる昨今、老年症候群の代表的症状として、「フレイル(fraility:虚弱)」という言葉が注目されています。
これまでは「老衰」「虚弱」などと呼ばれていたものですが、そこに至るまでには加齢以外にも、本人の生活環境・生活習慣・精神状態等のさまざまな要因が、複合的にからみ合っていることがわかってきました。
これらをひっくるめて対策を講じるべく、2014年に日本老年医学会が提唱した「フレイル」という呼び名が、一般にも徐々に浸透してきています。
【PDF】フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント(日本老年医学会)
専門家によるフレイルの定義として、以下の5つのうち3つ以上に該当すれば「フレイル」の状態にあり、1~2項目にとどまる場合は「フレイルの前段階」とみなされます。
1)体重の減少
2)主観的な疲労感
3)日常生活の活動量の減少
4)身体能力(歩行スピード)の減弱
5)筋力(握力)の低下
またフレイルは身体的なものだけでなく、精神面に関わる「メンタル・フレイル(認知機能の低下・虚弱)」や社会性が衰えた「ソーシャル・フレイル(自宅への引きこもり等)」と多面性を持っており、これらが相互に作用し合うことで負の連鎖を招きやすくなります。
高齢期を経て死に至るまでの間に、多くの人が「フレイル」の期間を通過することになります。
「健康が損なわれつつあるフレイルの状態にありながら、充実した生活の質をいかに保つか」という、生活者の視点が必要です。そのためにも、介護予防の果たす役割が極めて重要です。
高齢になると少しづつ筋肉量が減り、歩くスピードが落ちたり転倒しやすくなって、要介護状態になるリスクも高まります。この状態はサルコペニア(加齢性筋肉減少症)と呼ばれています。加齢以外にもたとえば病気で寝たきりになったことをきっかけに、サルコペニアを発症することもあります。
サルコペニアで筋肉が衰えると身体機能が低下し、身体活動エネルギーの消費量も減ることによって体重も落ち、最終的に体力の減少を招く悪循環に陥る可能性が高まります。
一般に、サルコペニアはフレイルの中核症状とみなされています。
つまりフレイルは同時にサルコペニアでもあるので、やがてその帰結となるさらに重い障害(骨折や脳卒中等)が導かれる前に、介護予防を通じた介入が求められるわけです。
言い換えれば、介護予防は「重度の決定的な障害に陥る」ことを防ぐことのみならず、それ以前に介入することによって、「フレイル・サルコペニアの発症・悪化を防ぐ」ことも求められているのです。
たとえフレイルになった後に気づいたとしても、それ以上の悪化を食い止めるべく、その瞬間から介護予防に取り組む必要があるのです。
高齢になっても適切な栄養摂取と運動によって、筋肉を増やすことができます。
加齢による基礎代謝量の低下や運動不足による筋力低下だけでなく、食事から摂取する栄養量(総カロリー・たんぱく質・ビタミン等)の減少も、サルコペニアの一因となります。
関連して、栄養を身体にきちんと吸収するための「咀嚼力の維持」という点から、口腔ケアも大切になります(介護予防としての口腔ケア~感染菌の増殖と低栄養を防ぐ ご参照)。
筋肉を増やすためには、「レジスタンス(筋繊維に負荷をかける)運動」が必要です。
「老化は脚から」といわれますが、日常の散歩や階段のちょっとした昇り降りでよいので、とくに下半身の筋力を日常的に鍛えることを意識するべきです。その際は「すり足で歩かない」「適度な歩幅を意識する」といった筋肉への負荷のかけ方に注意を向けると、なお良いでしょう。
歩行スピードは、特に注目すべき指標とされています。一般に歩行速度が秒速1メートル以下になると、要介護のリスクが高まると言われます。
目安として、横断歩道の青信号を青が点滅している間に渡りきれないスピード、つまり青信号で渡りきれないほどに歩行が遅くなっているなら、フレイル(ないしサルコペニア)の懸念が高いと言えます。
運動はトレーナーの指導のもと、リハビリ専用施設等で筋トレを中心に行うのが望ましいのですが、家で出来るようなちょっとした運動を、日々の生活に組み入れて少しづつでも続けるのがベストです(運動と筋力向上トレーニングの重要性 ご参照)。
以上のどれか一つでOKというものではなく、食事・運動・生活環境の改善を組み合わせて行うことにより、効果の最大化が期待できます。
本人の生活バランスの偏りを外部からチェックし、フレイルに陥ることを防げるのはやはり「家族」であることを、あらためて肝に銘じておきたいものですね。
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