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すべての記事は⇒こちらから介護予防としての口腔ケア~感染菌の増殖と低栄養を防ぐ
口腔ケアは「口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションにより、QOL(生活の質)の向上を目指した科学であり技術(日本口腔ケア学会)」と、定義されています。
介護予防の観点からも、口腔ケアの重要性は近年ますます注目されています。
高齢になるとどうしても、口内の筋肉の衰えによる歯肉の衰えや歯のすき間の広がりや、咀しゃく力の低下などが目立ってきます。
また抗がん剤治療の影響により、副作用として口内炎を患っているケースなどもあります。
一般に高齢になるにつれて唾液量が減少するため、口の中は乾きやすくなります(ドライマウス)。
これにより口内に350~700種あると言われる細菌の中でも、免疫力が低下すると病原となりやすい「日和見感染菌(ひよりみかんせんきん)」が、発生しやすくなります。
また唾液の量や状態は味覚の認知にも関わるため、「味がわからない」「変な味がする」といった、いわゆる味覚障害につながるリスクもあります。
口内の痛覚なども鈍くなってくるため、歯周病の治療を行わず放置することでも、感染菌は増殖します。
歯周病が自覚症状を伴いにくいことも、口腔の状態を一層悪化させがちです。
感染菌は血液に乗って全身に移動し、さまざまな感染症を引き起こすのみならず、糖尿病や動脈硬化など生活習慣病との強い関連性も指摘されています。
誤嚥性肺炎や認知症を予防する観点からも、定期的な口腔ケアにもっと関心を持つようにするべきです。
要介護高齢者の口腔微生物叢について(8020推進財団)
高齢となり、すでに入れ歯になってしまっても、決して口腔ケアが無駄になることはありません。年齢に関わらず筋肉は鍛えることで改善するものであり、これは口腔内のケアにおいてもまったく同様です。
口腔ケアは、単純な歯磨きや虫歯の治療にとどまるものではありません。
歯石の除去や舌磨きによる口内細菌の減少、さらに口の筋肉トレーニング等によって咀しゃく機能や唾液の分泌量を回復させ、要介護化の原因のひとつとされる「低栄養」の防止をはかります。
「食べ物を自分の口に入れ、噛みながら味わう」機能を大切にすることによって、高齢者が陥りがちな低栄養状態を回避するのみならず、タンパク質・エネルギー量不足による筋力低下からくる歩行時のふらつきや、免疫力の低下による合併症を防ぐことにもつながります。
さらにトレーニングで顎の関節に適度な負担をかけることにより、顎関節症の予防・改善にも役立ちます。
介護予防の観点からは、手始めに市区町村がNPO法人等に委託し実施している、「地域支援事業(介護予防事業)」メニューの中の、「口腔機能向上プログラム」に参加してみるとよいでしょう。
正しい歯の磨き方や義歯・舌上の清掃方法などに加えて、舌・口唇・頬の運動、うがいや嚥下の練習などについてポイントを指導してくれます。まずは、市区町村の介護担当課に相談してみるとよいでしょう。
口腔ケアマニュアル【PDF】(要介護者口腔ケアネットワーク)
手頃な時期に講習会が開催されていない、あるいは個別的に指導を受けたいという場合は、日本訪問歯科協会が実施している、お近くの地域の「訪問歯科サービス」を利用してみるのもよいでしょう(治療費においては、医療保険・介護保険の適用があります)。
訪問歯科を申し込む(日本訪問歯科協会)
最後に、「介護予防としての口腔ケア」と「在宅介護で行う口腔ケア」は、やり方に異なる点があることにも注意が必要です。
たとえば在宅ですでに介護に入っている場合、口腔ケアによって唾液の分泌量が増えるため、唾液の誤嚥リスクが高まるので、吸引器をそばに常備してケアを行う必要があります。
同様に誤嚥リスクを引き起こすリスクのある「歯磨き粉」も、使うべきではないとされます。
予防としての口腔ケアをきちんと行いつつ、先々も視野に入れ、このような周辺知識を持つよう努めることも大切ですね。
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